Yunta’s STORY

わたしの好きなものを好きなだけ。「春に咲いた花は秋に枯れた」連載中。一児の母です🤗

ハイキュー!! 夢小説

何年か前に書いていたものです。

嫌いな方はブラウザバックお願いします!

お好きな方はどうぞどうぞ!沼へ!!!

好評ならまたのせるかもです。

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二年マネちゃんシリーズ

 


朝焼けに眠る月曜日

世界征服を企む火曜日

世界が舞落ちる水曜日

ハート泥棒に出会う木曜日

幻が嘘をつくのは金曜日

結局此処に戻る土曜日

純白の乙女に日曜日

 

 

 

 

 

 

 


いつもと違う呼び方をする

 


「にろ!」

「………」

「だーからー!にろ!」

「それ、違う呼び方とか、そういった事じゃねぇよ」

「え?いつもと違う呼び方してって言われたからさー」

「いい加減にしろよ。おまえ」

 


 隣でご立腹の二口を見ながら笑う。すると、彼は仁菜子の頭を掴むと、まるで男の子の友達とじゃれるように頭をぐりぐりとして来た。さすがに痛い。男の子の力を侮っていました。

 


「痛い。二口ー」

「お前、ほんっと腹立つ……」

「ごめんごめん。で、なんて呼べば良かったわけ?」

 


 すると二口は私の頭をぐりぐりしている手を止めると、そのままがっしりと大きな掌で私の頭を掴むと、自分の方へと向かせた。至近距離で彼と目が合うから何だか恥ずかしくて思わず目を伏せる。

 


「下の名前……」

「えー。やだ」

「何でだよ?」

「だって、下の名前とかって付き合っている人と呼び合いっこしたいからだよ」

「ふーん……」

「う、うん」

 


 二口がそう言いながら目を細める。彼が何を考えているかわからなくて、そのまま回れ右をしてこの場から逃げようとしたら、首根っこを掴まれた。あのー!私、これでも一応女の子なんですけれど!工業高校では貴重な女の子なんですけれども!そんな事を言いたいけれども、言わずにその場で立ち止まる。

 


「あのさ、だったらさ……」

「うん」

 


 背中から少しだけ緊張した風の二口の声が聞こえるから、自然の私の背中までコチコチに緊張で強ばってしまう。そして、彼の手が私の肩へと乗せられるものだから、びっくりして身体が大きく跳ね上がった。

 


「あ、やっぱ、また今度な。うん」

「え?」

 


 いきなりの肩すかしに私の緊張の糸が切れた。ふわり……と身体全体から力が抜ける。うん。まあ、それでいいんだ。あのまま彼の言葉を聞いていたら、これから先の学校生活が少しだけ気まずいものになっていたかもしれないし……。

 


「ね、にろ」

「にろじゃねぇよ」

 


 そう言って笑った私を見て彼は軽快に栗色の髪の毛を揺らして笑った。

 

 

 

 


○一緒に迎えた朝は二人で朝食を作る

 


 好きな人と迎える朝はきっと素敵できらきらと世界が輝いて見えて、それでいて、恥ずかしくて、きっと彼と顔を合わせる事なんて絶対に出来ないんだ。お互いにベッドの中で顔逸らして、でも、少しだけちらりと横目で見て、、昨日の夜の事を思い出したりして、とてつもなく恥ずかしくなったりなんかしたりして枕に顔を埋めたり……、と、それはわたしの全て妄想です。そう、妄想で理想でした。けれども、わたしは思っていた人とはまったく別の形で朝を迎えてしまった……。

 


「おーーーい。まだ寝てんの?重い。そこ、どいて」

「うー。眠い。体痛い。わたし、低血圧」

「そんなの関係ねぇよ。何でお前だけ俺ん家に泊まってるワケ?」

「だって……、終電逃したし……」

 


 まだ簡単に床に引いてある布団の上でごろごろとしながら覚醒しない頭を抱えて一生懸命に目を開けるようにがんばっていると、顔の上にタオルケットが降って来た。

 


「おきろー。はいっ!猶予時間終了」

「うわー!二口酷い!もう少し女の子っぽい扱いして!」

「へー、どこが女の子?女の子がいくら同じ部活だからって男だらけの部屋に遊びに来て、そのまま寝て終電逃して、部屋に泊まって行くとかさ……」

 


 二口はやっと布団の上に座り、頭からまだタオルケットを掛けたままのわたしを見て口の広角を上げながら意地悪に言う。

 確かにそうだけれど。確かに。はたからみるときっとわたしは凄くビッチというヤツに見えるのだろうし、自分でもやっちゃったなーと思う。けれども、バレー部のメンバーって私にとっては何だかただの仲間で友達と全然変わらなくて、こうして家族かのような扱いをしてしまう。特に二口は同じクラスだし、弟のようというかなんというか……。とにかく、とてもじゃないけれども男の子として見れない。

 


「なにそんなに考え事してんだよ?」

「別に……」

「ふーん。じゃあさ、俺、お腹空いたんだけれど」

 


 その言葉と同時にわたしのお腹もぐうと音を立てた。お腹が空いているのはわたしも一緒だ。

 


「今日さ、言ってたように母さんとか居ないからさ、なに食べようとか思って……」

「んー。それならわたし、何か作ろうか?」

「えっ?!お前、作れんの?」

「ちょっとくらいなら。パン焼いて、スクランブルエッグとかくらいなら……」

「それだけあれば十分」

 


 それだけ言うと二口はわたしから布団をはぎ取り、まるで子供にするかのように後ろから腕を持って抱き上げる。近づいた彼からふわりとシャンプーのいい匂いがして思わずドキリと心臓が音を立てた。

(なに?今の?)

 


「どした?」

 


 いきなり彼から体を離したわたしを見て二口が不思議そうな顔をする。そりゃそうだろう。だって、二口に触られた瞬間に凄い勢いで腕を振り払って、彼から数メートル離れた場所へと移動してしまったのだから。自分でもなにが起こったか少しだけ理解出来ていない。

 


「だ、だって、二口、いい匂い」

「あー。さっきシャワーしてきたからなー。ってかお前もする?」

「しない!だって、ここ二口の家じゃん!恥ずかしい!」

 


 そう言ってタオルケットで顔を覆い隠したわたしを見て二口は大きな口を開けて笑った。

 


「恥ずかしいとかって。笑えるー。お前、さっきまで俺の隣で大口開けて寝てたくせに」

「う……」

「まあ、そんな事はいいとしてさ。早く朝飯、作ろうぜ。俺、なにすればいい?」

 


 二口はまだタオルケットを握りしめているわたしに背を向けるとケラケラと笑いながら部屋を出ていった。腕の中にあるタオルケットから二口からさきほどしたシャンプーの匂いがした。

 


★付箋文★

 


○晴れた日には行く当てもなく散歩してみる

 


 部活が休みの休日は何だか少しだけ物足りない。いつもは休みが欲しい、たまにはゆっくりしたい……なんて思うのに、その辺りが本当に自分でも勝手だなーと思う。

 


「あー。いい天気だー」

 


 朝起きてカーテンを開ければ空は雲一つ無い快晴だった。どうしてこんな日に友達との約束を入れておかなかったのか……今になって少しだけ悔やむ。そして、机の上に置いている携帯を手に持つと、メールを打とうとして手を止めた。

 


「まあ、いっか。たまには一人でぼーっとするのも……」

 


 そう呟くと、私は部屋着から着替えて財布と携帯を片手に家を出る。お母さんが「ご飯はー?」と言っていたけれども、とりあえずは外を歩きたい気分だった。まだ早朝とも言える外の空気は澄んでいて気持ちが良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


○寂しそうな時には左手を繋ぐ

 別に何があったワケじゃない。うん。たぶん。いや、あったかな。春高予選。負けてしまった。わたし達は頑張った。新主将の二口なんてそりゃもう、相変わらず口は悪いのと生意気なのは通常営業としてもだ。あいつは本当に頑張った。あんなに真剣な二口なんて見た事が無くて、まだ来年もチャンスはあるというのに、なんだか心にぽっかりと穴が空いてしまったような気持ちだ。なんだ?この気持ち。なんとも言えない。彼にどう言葉を掛けてあげればいいのかわからない。こんな事、今まで考えた事無かったのに。

 


「あ、二口」

 


 廊下にでた瞬間に二口と偶然にばったりと出会う。何だか落ち着かなくて一度目を逸らすと、彼はいつもと変わらないテンションで「負けちまったなー。ってかあのチビ、成長しすぎ!」とか笑いながら言うものだから、何だか拍子抜けしてしまった。けれども、その表情は私が知っているものと少しだけ違う気がして。何だか妙に気になる。

 


「二口!」

「あ?何?」

 


 さっさと歩いて行こうとしている二口の服の裾を反射的に掴むと彼の名前を呼んでいた。別に何か用事があったとかじゃないからその後に、どうすればいいのかわからず沈黙の時が流れる。

 


「あの!今日!」

「何?今日の試合の事気にして、何か言わなきゃとか思ってんの?あ、あれ、完璧に俺のミス。次は主将としてもっとしっかりしなきゃな。うん」

 


 二口がそんなに簡単に言って、ケラケラと笑うから、何だか胸の辺りがきゅっと苦しくなって泣きたくなって来る。そんな事、思って無いでしょ?しっかりしなきゃとか思っているとか、自分で責任を感じるのはわかるけれど、そんなにヘラヘラ笑っているような気持ちじゃないでしょ?すっごく悔しかったでしょ?鉄壁を破られたんだよ?三年生が引退して初めてのメンバーでの試合だから色々と思う事だってあったでしょ?

 


 わたしの目は節穴じゃないんだよ!!

 


「二口!辛い時に無理して笑わなくていい!!もっとわたし達マネや仲間に頼ってよ!」

「え?いつも頼ってるじゃん」

「じゃあ、そんなに泣きそうな顔して笑うな。笑わないで!」

 


 言っているうちにわたしが泣いていたようで、二口は優しい顔をして近づいて来ると、「バカなの?おまえ……」と小さく言う。その音色は今まで聞いた事のない程、小さくて、そして優しい音を含んでいた。

 二口はわたしの涙を指で優しく拭うと言った。

 


「じゃあさ、今だけでいいから、手、繋いでよ」

「わたしでよければ」

「おまえがいいの」

 


 そう言いながら差し出された二口の左手を笑いながら取った。

 

 

 

 

 

 

 


○失敗した前髪にキスをする

 失敗……。超恥ずかしい。これ、学校行きたくない。何で自分で前髪切ろうとか、わたしならうまい事出来るんじゃない?なんて無謀な事を思ったんだか?

 


 洗面台の鏡の前で自分の前髪を押さえる。いくら押さえたところで、やっと眉毛に届くくらいしか長さが無くて、手を離した瞬間におでこが半分くらい見えてしまう。もう、なんだかこんな髪型の芸人さん居る気がする。まず、絶対に二口に笑われる……と思う。

 


「あーー!学校行きたくないーー!」

 


 大きな声で叫ぶと、台所からお母さんの声が聞こえて来た。

 


「なに行ってんの?あんた、単位ヤバいのあるでしょ?しかも今学期は無遅刻無欠席誓ってたじゃない?」

「そうだけどー。前髪がー」

「誰もあんたの前髪なんて見てないから大丈夫よ」

「はいはい」

 


 そう言われて確かにそれもそうだと思い直し、おもいっきりワックスで前髪をなで付けた。これで少しは長く見えるはずだ。これが雑誌に出ているモデルさんやタレントさんならお洒落で可愛いのに、なんせわたしだからなー。部の皆にも同じマネ仲間にも「その女子力の低さ、何とかならないの?」と言われる程だし。誰か女子力分けてください!あー!あの烏野のマネさんの女子力が欲しい!っていうか烏野のマネさんになりたい、なんて言ってもどうしようもないことばかり考えて一人撃沈しつつ、学校へとの道のりをとぼとぼと歩いた。

 


 


「あれ?前髪どしたよ?」

「………」

「何で手で隠してんの?」

「………みないで………」

 


 ああ、何で一番会いたくないヤツに会ってしまった!わたし!今日は部活も無いし、同じクラスだから顔を合わせない事は無いにしても、そんなに絡まれる事も無いと思っていたのに。だからいつもよりも早めに家から出たというのに、登校途中で偶然にも二口に会ってしまうなんて。

 絶対に前髪の事は悟られないようにしっかりと手で前髪を押さえる。そしてそそくさと彼の前から立ち去ろうとした瞬間だった。

 


「どうしたんだよ?」

 


 いきなり二口がわたしの鞄を掴むものだから思わず体勢が後ろに傾いて転げそうになる。

 


「ちょっ!なに?!」

 


 あ、振り向いちゃった……。

 


 いきなり二口がそんな事をするから、いけないんだ。だからだ。まだ誰も居なくて良かった。居るのは二口だけだというのがせめてもの救いだ。学校までへと続く長い坂道。横にある桜の葉桜がさわさわと風にゆれている音がする。

 


「おまえ……それ……」

「うるさい!だからみないでっていったでしょ!」

 


 思わず大きな声が出た。手に持っていた小さな手提げ鞄で彼を殴る。何だか恥ずかしいし、二口がわたしの事を次の瞬間にバカにするんだろうなってわかっていたから、思わず涙が出てきた。いつもいじられていると言ってもわたしだって一応女の子なのだ。恥ずかしいものは恥ずかしいし、嫌な事だって、ショックな事だって、落ち込む事だってあるのだ。

 そんな事を考えて前髪を押さえたままぼろぼろと涙を流していると、二口がわたしのすぐ前まで来る。そして前髪を押さえている手をどかしたかと思うと、優しく笑った。

 


「可愛いじゃん」

「え?」

「おれ、こういうのって好きだけど?」

 


 それだけ言うといきなりわたしの切りすぎてしまった前髪に本当に触れたのか触れてないのかわからないほど素早くキスをした……気がした。

 


「ちょっ!」

「まあ、落ち込むなって」

「いやいや、さっき何したのよ?!」

「別にー」

 


 それだけ言うと二口は楽しそうにまたいつもと同じ様に意地悪そうに笑うと、凄い早さで坂道を走って行った。

 

 

 

 


たまにじゃれあう、じゃれあいすぎてケンカする

 


「ちょっと!そのパン返して!」

「えー。いいじゃん。俺、腹減ったし」

「腹減ったじゃないよ。それ、わたしの今日のお昼ご飯。しかもまだ二限目が終わった所」

「あれ?お前、今日、弁当じゃねぇの?しかもこれだけで足りるワケ?」

「足りますー!」

 


 目の前で二口がわたしのお昼ご飯のパンを手にして片手を上げる。それを何とか取り返そうとして跳ねるけれども、何せバレー部男子。いくら気合いを入れてもまったく掠りもしない。仕方が無いから強行手段で椅子の上に……なんて思って上履きを脱いでいると「ちょ、何してんだよ?!」と言いながら二口に止められた。

 


「いや。椅子の上に上ってパンを取り返そうと……」

「っていうかさ……。まぁ、いいや」

「何?途中で言うの止められると何だか気持ち悪い」

 


 そう言いながら二口が先ほど返してくれたパンを鞄の中に押し込んで居ると、彼の長いため息が聞こえた。そして小さな声で言う。

 


「お前ってさ」

「うん」

「女だよな?」

「はあっ?!何それ!失礼なっ!どう見ても女の子だよっ!スカートだって履いてるしっ!」

「そこかよっ!」

「何よ!二口が失礼な事言うからいけないんじゃん!バカっ!」

 


 それだけ言うと、わたしは彼の長い足(弁慶の泣き所の辺りだ)を思いっきり蹴る。「いでっ!」という声が聞こえたけれども、それを無視して廊下へと早足で出た。そして、そのまま2年生の学年が入っているフロアを歩くと、特別教室の棟へと続く渡り廊下で足を止めた。その場所から柵に寄りかかったまま中庭を見る。

 3階から見る中庭はなんだか箱庭のように見えて、現実感が無かった。

 


 わたしの通っている学校は工業高校の為、男の子が圧倒的に多い。女子なんてクラスでも指で数えられる程しかいない。だから、クラスのみんなはあんまり酷い事を言わない。けれど、二口は違う。わたしの事をいつもバカにして、男の子と同じ扱いしかしない。悔しい。同じクラスの矢部さんにはとても優しく接しているくせに!バカ、エロ二口!叫びたくなるのを我慢して、涙と一緒にぐっと喉の奥に飲み込む。

 


 


 別に二口の事が好きな訳じゃない。だから、今回のような事があっても、言われてもそんなに傷つかないつもり……だ。なのに、わたしは何をこんなに落ち込んでいるのだろうか?

 


 自分の気持ちが良くわからないまま、じくじくと胸の奥深くで痛んでいる腑に落ちない感情を飲み込むようにわたしは唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

○仲直りのきっかけは駅前のケーキ屋さんで売っている

 


 やってしまった。本当にやってしまった。

 


 俺は今、絶賛落ち込み中だった。部活に行く為のエナメルのバッグを肩に掛け、ふらふらと更衣室までの道のりを歩く。正直自分でもバカだと思うし、こんなにもダメージを受けるなんて思っていなかった。

 


 あいつは只の仲の良い友達で、部活の仲間。大騒ぎして、時には喧嘩もして、同じ部屋でいびきをかいて寝て……そんな事を入学した時からして来た。

 時々女子だという事を忘れていたし、あいつだって俺の事を男だなんて思っていないだろう。

 


 でも、いつからだろうか?その感情が少しだけ違うのではないかと気付き始めたのは。俺とあいつがお互いに抱えているものは違うものでは無いのか?もし「好き」という言葉を使ったとしてもベクトルがまったく違うのでは無いかと。

 


 その事に出来るだけ気付かないようにしていた。だって、あいつは友達で、親友で、仲間で、これからも一緒に戦っていく大切なチームメイトだ。自分の感情であいつを悩ませたくない。

 

 

 

 


お互いの物を増やす画用紙に未来予想図を書く

新婚さんごっこの毎日を送る

 


10貰った幸せは11で返す

 

 

 

 


昨日から可笑しな私の心臓です

目が泳ぐ、顔が赤くなる、どうやって笑っていたか分からなくなる、病気にかかりました

友情と愛情は紙一重なんですね

 

 

 

○この距離感はもう私の日常ではありません

「ゼン王子ー!どこに居るのですか?」

 


 まだ早朝の王宮内をクラリネス王国第二王子、ゼン陛下を探して私は歩いていた。とんとんと私の靴音が王宮の廊下に響いて反響する。この王宮には壁といったものが少ない為、外の様子が良く見える。鳥のさえずる音、朝日が柱の間から差し込む光景。外を見れば緑色が芽吹いている。本当に実に気持ちの良い王宮だ。

 そんな王宮に私とゼン陛下は小さな頃から一緒に居る。私の母は宮廷薬剤師をしており、この王宮内に居城を構えていた。だからゼンと一緒に遊ぶことも自然と増えた。けれども、私が14歳になり、宮廷薬剤師の試験を受けるこ頃になると、すべてが変わった。やっぱり彼と私は身分がまったく違うのだ。いくらゼンの隣にいる事が楽しいといっても、それは叶うものでは無い。

 


「ゼンー。ゼン王子ー。どこですか?」

 


 朝日の眩しい回廊をゆっくりと歩きながら、外の緑に目をこらす。もしかすると、ゼンがいるかもしれない。もう、本当に王子らしくない王子様だな。

 


 そんな事を思いながら緑の茂みを見ていると、突然猿かのように噂の彼が飛び出して来た。

 


「ああー。ごめんな。ミツキ」

「そうですよ。毎回ゼン王子の事、探す私の身にもなってください」

「それ、他のやつにも言われた事があるな」

「じゃあ、気をつけてくださいよ」

 


 そう言いながら廊下の窓枠に座っているゼン王子を見て少しだけわらう。本当にこの人が王子なんて柄じゃないな……なんて。

 


「ああー。ミツキ、何で笑うんだ?」

「いえ。何でもないです」

「よからぬ事を考えていただろ?」

 


 そう言ってゼン王子は窓枠からぴょんと身軽に飛び降りると、私の前に立つ。そして、私の頭を大きな手でぽんぽんとしたと思うと、突然自分の方へと引き寄せた。突然の事にゼンの顔が私と数センチの距離まで縮まる。心臓がばくばくどきどきしてもちそうにないんだけれど……。そんな事を思いながら平静を装う。

 


「へへ。ミツキ捕まえた!ってか、秘密にしといてな」

「えーー!

「まあまあ、幼なじみのよしみって事でよろしく!」

「何?!それ?!」

 


 ゼン王子はそう言って私のおでこに自分のおでこをぶつけて不適な笑みを見せると、また猿のようにぴょんぴょんよ跳ねて行った。

 

 

 

 


○ただきっと、歯車は狂ったのではなく正常に動き始めたんです

 

 

 

 


○お揃いの赤い頬、もどかしいねお二人さん

「影山、顔赤いー」

「そういうおまえも赤いだろがっ!」

「そんな事無いよ。寒いだけだよ」

「何言ってんだよ」

 


 影山と一緒に手を繋いで夕暮れの道を歩く。どこからとも無く懐かしい香りがして来て、小さな頃の事を思い出した。

 


 私は大人になった。まだ大人というには早すぎるけれども、それでもただ毎日が楽しくて走り回っていた日々は終わったのだ。そして、少しだけ大人になったのだ。

 


「あー。もう、こっち見んなっ!ボゲっ!」

「それ、彼女に言う台詞?!失礼しちゃうなっ!」

「だって、その、お前、さっき何したかわかってんのかよ!」

「ん?えっと、その……」

「だろが?だから見んな」

 

 

 

○すれ違ったら追いかけて

「澤村!ちょっと待って!」

 


 私がそう呼んでも彼は振り向いてくれない。何をそんなに怒らせるような事をしたの?いつもは優しくて、何でも笑って聞いてくれる彼なのに……、どうしよう。このままだったらどうしよう。不安で胸が押しつぶされそうになる。

 


「おい、何で勝手に俺に内緒で将来の事とか決めてるんだ?」

「だって、澤村、忙しそうだし……」

「少しは相談してくれたっていいだろが」

 


 追いかけて、追いついて、そう言って私の頭を撫でてくれた彼はとても優しくて、思わず涙がこぼれそうになった。

 

 

 

○5センチの距離を保って歩く今日の道、いつか手を繋いで

 


 前を見ると、愛しい彼の姿。黒色の髪の毛が夕日で少しだけ赤く染まっている。いつも私は縁下くんの後ろを歩く事しか出来ない。バレーの試合が終わった後、練習が終わった後、みんなで帰る時。私が見ているものはいつも彼の後ろ姿で、彼と同じ位置で横に並んで歩く事などない。

 でも、それでいいんだ。それが彼と私の関係性な訳で、それが崩れてしまうと、きっとすべてがダメになる。

 


 でも、今日はね。いつもよりも距離が近くて、約5センチの距離を保っている。他の部員も何故か居なくて、私と縁下くんは二人きり。

 


 ねえ、その手、繋ぎたよ。

 いつかは縁下くんの後ろ姿を見るだけの女の子じゃなくなりたいよ。

 


 ねえ、好きだよ。

 


 まさかそんな台詞は伝える事も出来ず、今日も彼といつもよりも縮まった距離に嬉しく、でも、少しだけ切なくも思いつつ手を繋ぐ事を夢見ているのです。

 

 

 

 


○後ろ姿にゆうらり貴方を重ねてみるの

 


 ゆうらり、ゆうらり。

 夕暮れの道をあなたと一緒に歩く。それは小さな頃からずっと変わらない景色。夕ちゃんの背中を見ながら歩くのはわたしのくせだ。

 身長は失礼だと思うけれども、決して大きな方では無い。けれども、その背中はとても大きくて、そんな彼の後を追いかける事が大好きだった。

 


「どうした?」

「ううん。何でもない」

「そっか。ならいいけどさ」

 


 私の前を歩く人は今は夕ちゃんでは無い。黒尾くん。夕ちゃんよりもとても背が高くて、大人で、性格だって全然違う。

 


 けれども、ふとした瞬間に何かと重なるように夕ちゃんの背中と黒尾くんの背中が重なって見える事があるから、わたしはふっと息を飲んで足を止める。

 


「また何か考え込んでる」

「そ、そんな事」

「俺以外の男の事、考えてるだろ?」

「……」

「まあ、いっけどさ」

 


 黒尾くんはそう言いながらまた前を向いて歩き出した。夕日が綺麗で彼をオレンジ色に染める。夕ちゃんも同じようにこうしていつもと同じように、あの頃のようにこの夕日に向かって歩いているのだろうか?

 


 また、ああやって夕ちゃんの背中を見ながらわたしは幸せな気分で学校の通学路を歩けたらどんなに幸せなのだろうな……なんて思った。

 

 

 

 

 

 

○だからもういいよ、愛があるからね

 好きだった。大好きだった。けれどもう今日で終わりにしないといけないの。睫を伏せるかのように下を向けば、瞳に溜まっていた涙がぽとりと小さく音を立てて落ちた。

 別に誰が悪いワケなんかじゃない。わかっているよ。わたしの事を嫌いになったワケじゃない。君を見ているとちゃんとその温かな気持ちが伝わって来るよ。

 


 徹くんはもう行かないといけない。わたしの事を小さな頃からずっと守ってくれた。わたしが泣きたくなると一緒になって泣きそうになるのをこらえて小さな手でわたしの手をぎゅっと握り返してくれた。ずっとずっとわたしの事を守るって言ってくれた。

 それは小さな頃に交わした魔法のような言葉で、その言葉は、魔法はきっといつか切れてしまう時が来る。そんな事わかっているの。わたしは今までずっとその徹くんの魔法の言葉にずっと助けられて来たから。

 


「大丈夫だよ。わたし」

「本当に?大丈夫じゃないって顔に書いてある」

「そんな事無いよ」

 


 駅でそう言いながら笑う。周りには徹くんの大切にしている人たちがたくさん居て、本当に昔から徹くんは人気者なんだな……と思った。彼の誠実で温かくて、優しい気持ち。困っている人を放っておけない所。それがたまに裏目に出て女の子にはいい加減だとか、遊び人だとか悪い噂が立った事もあるけれど、それは違うってわたしは知っているんだ。

 


 徹くんは優しいから。優しすぎて、人の事が大好きで大切過ぎて、その事によって自分が辛くなっちゃうから。自分の事を第一にじゃなくて、人の事を一番に考えてしまうから。だから……。わたしはもう彼の傍に居てはいけない。

 


「ばいばい。徹くん。また遊びに行くね」

「おう。いつでも来てよ。俺も直ぐに帰るしさ」

 


 にししとわたしを見て笑った徹くんは小さな頃と同じやんちゃ坊主の瞳をしていた。

 


(大好きだよ。徹くん。ずっとずっと、あなたの幸せを願ってる)

 


★付箋文★

○わたしは君に幸せにしてもらわなきゃいけないの

 笑い合って、見つめ合ってわたしはあなたの事を知る。

 すきだって思う。愛しいって思う。

 そんな気持ちは今まで感じた事が無くて、これから先にもあなたにしか感じないとそう思う。

 


「蛍くん。大好きだよ」

「……、そんな事、恥ずかしげもなく良く言えるよね?」

「だって。本当の事だし、言える時に自分の気持ちは沢山伝えておいた方がいいと思って」

 


 にしし、と笑いながら蛍くんの顔を覗き込むと、「やめて」と言わんばかりに大きな手のひらで顔を離される。それってちょっと酷くない?!少し傷ついたな……そんな事を思いながら彼を見ていると、蛍くんがぼそりと言った。

 


「あのさ、これから毎日一緒に居るのにさ、そんな事ばかり言われたんじゃ心臓もたないでしょ?そのあたり、少しは考えてよね?」

「え?」

「だから、いつもそういった事言われる度に心臓も理性も持ちそうにないって事わかってる?僕、これでも結構我慢してるんだけど……」

 


 そう呟いて私から少し離れて歩く蛍くんの後ろ姿を見ながら笑顔がこぼれる。手に持った赤いキャリーバッグを引きながら彼の元へと早足で駆け寄ると、空港内の床にゴロゴロとタイヤの音がした。

 


「ほら、早くしないと搭乗手続き始まるよ」

「あ、うん」

「まったく……」

 


 そう言いながら蛍くんは私の荷物を持ってくれる。

 


「ありがとう」

 


 そう、これから先、蛍くんと私はこうして一緒に物事を決めていかないといけない。お互いにわからないことは聞いて、譲れる事は譲れる範囲内で譲り合って、少しずつ近づいて行く。

 


 わたしはあなたに幸せにしてもらわなきゃいけないの……そう思っていた。けれど、それは違ったね。私はあなたに幸せにしてもらうけれど、私もあなたを精一杯全身全霊をかけて幸せにしたいと思う、します。

 


 これからも、ずっとよろしくお願いします。

 

 

 

 


○ちらかした花びらにもう涙はいらない

 


「好き、嫌い、好き、嫌い、好き……」

 


 足下に落ちていく花びら。それはまるで季節はずれの雪のようで、何だか余計に悲しい気分になった。その花びらの上にぽつりと小さな滴が落ちる。

 


 今日で終わりにしなければいけない。だって、わたしの大好きな花巻先輩はもう、この学校を卒業する。今まで当たり前の距離で会っている事が出来た日々。それが全て無くなってしまう。

 

 そして、臆病で勇気も何もないわたしは今、こうしてただ、手元にある白い綺麗な花で小学生の頃に流行った「花占い」をする事しか出来ない。

 


「せんぱい……。好き……でした……」

 


 全て花びらの無くなった花の茎を手に握ったまま小さく呟けば、頭上から聞きなれた声が聞こえた。

 


「あーあ。綺麗な花だったのにさ。俺、実はそれちょっと欲しかった」

「国見……。って、花、好きだったの?」

「その花は特別。チョコレートコスモス

「そんなに可愛い名前なの?」

 


 私のせいで無惨な姿になったチョコレートコスモスとやらをじっと見つめる。ごめんね。ちょっと感傷的になりすぎてしまいました……。そっと手を合わせると国見を見る。

 


「でもさ、その花の花言葉、今のおまえにぴったりだと思う」

「そうなの?」

「うん。調べてみたら?」

「はあ……」

「でさ、俺ならきっとそんな思いさせないからさ」